足の親指の付根と一本歯下駄トレーニング
足の親指の付根は、いろいろな武道やスポーツで大変重要な部分として教えられています。母指球というのですが、まるで神話のようになっています。「足の親指の付根に体重をかけて構える」「足の指で地面をつかむようにして立つ」などとお題目のように唱えられています。体の構造からすると「足の親指の付根で立つ(体重をかける)」ようにした場合、足首の動きが抑えられ(ロックされ)ています。(写真1)
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足首が固まっていますから誰かに押されたりするとすぐに倒れてしまいます。また、動き始めるには、足首のロックをはずしてから動くか、前に倒れこむようにして動くかしかなく、大変効率が悪いのです。(写真2)
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人間は立っているときに完全に静止することはできません。全身の関節が少しずつ動いて揺れ幅を小さくしています。一流アスリートは全身の関節の多くが動いているので、この揺れ幅が大変小さいのです。これは重心位置を測定する実験であきらかになっています。ですから一流アスリートになりたければ全身の関節が動いて微調整できる能力を高めればよいのです。バランストレーニングにはこのような意味があります。
足の親指の付根に体重をかけて立つと足首関節はロックされて使えないし、膝関節も動きにくくなっています。ですからピッチャーが軸足一本で立つ時や、バッターがバックステップした時や、守備の構えの時に親指の付根に体重が乗っていることは不安定といえます。(写真3)
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ピッチャーが軸足一本で立っているときで説明すると理想的には足底全体が地面に接地しているようにします。この時足底のアーチ構造の筋肉がクッションのように働きます。更に足首関節、膝関節、股関節、背骨の一本一本のクッション性、肋間筋(肋骨の間にある筋肉)のクッション性、更に両腕もバランスを取るのにヤジロベーのような働きをしています。(写真4)
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感覚的には全身がたいへんリラックスしていて、体の真ん中に一本の線が通っているように感じられます。(中心線の感覚)骨格の構造的にいうと、つちふまずのあたりに中心があって足底全体で体重を受けているということになります。足の親指の付根、母指球が働く瞬間は足が地面をはなれる時、足が地面を蹴る時に使われます。理想の体重移動(動き)の時の三点接地(図1)
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の最後の局面で働きます。陸上競技では、この動きを地面反力と呼び、自分自身の力で地面を強くけるのではなく、地面の反作用でけられてしまうような感覚を理想としています。リラックスして動くということでなければ、この動きはできません。このような全身の関節がいつでも動ける状態で立ったり、構えたり、全身が協調連動した地面反力を使う動きを身につけることが一流アスリートになる第一歩です。
この動きを身につけることができるのが一本歯下駄トレーニングです。いまでは、いろいろなスポーツや武道を実践される方々が一本歯下駄トレーニングに取り組まれています。先日も、ある高校の野球部がチーム導入され、トレーニングに励まれています。一本歯下駄をはいて走るだけで動作改善に大変効果がありますので、走りこむことでトップアスリートの動きに近づいていきます。一本歯下駄で動くことは一歩一歩が非常に不安定になります。このため全身の関節や筋肉が微調整しながら働き始めます。この時の感覚がリラックスして動くというトップアスリートの感覚そのものです。
ではリラックスして動くことになる一本歯下駄トレーニングを足の親指の付根(母指球)に焦点を当てて説明します。地面反力を利用した本当に強い地面のケリの時に母指球が働きます。このとき足首関節の働きが大変重要になってきます。野球で言えばピッチャーやバッターの軸足や前足の動きに大変影響します。ですから多くの野球チームの監督たちは選手の足首の柔らかさに大変注目しています。足首関節の働きは、足や足指を反る(背屈)、足を内側に反る(内反)、足を下に踏む(底屈)、足を外側に反る(外反)があります。リラックスして動いている感覚の時にはこの順番で動くことになります。(写真5)
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この動きが地面反力を使った動きであり、足首関節の動きの最後の局面である外反の時に足の親指の付根が蹴られることになるのです。バッティングの軸足の動きで説明すると(写真6)
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のようになります。一本歯下駄でのトレーニングはトップアスリートのリラックスしたしなやかな動き、母指球を使った地面反力の動きを自然に身につけてしまうことになります。
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